232 渾沌(こんとん)の作品が宮廷にもたらされた。
- たいていの者は真っ青になった。
- 双槐樹(コリューン)だけが、作り話くさいと冷静で、北磐関(ほくはんかん)に偵察をおくらせる。
- 偵察者は、小心者で、北磐関(ほくはんかん)の付近に精一杯近づき、そろりと覗く程度に偵察しか行わなかった。
- 兵部尚書・李實(りじつ)が震えながら報告を聞いた。
233 兵部尚書・李實(りじつ)
- 兵部尚書まで上り詰めたのに、からきし意気地のない男。
233 兵部尚書
- 軍務大臣のこと。
- 素乾兵部の最高責任者で、軍事に関しては独裁的なほどの権力を持っている。
233 兵部尚書・李實(りじつ)は尻込みしたが、双槐樹(コリューン)が尻を蹴とばすようにして北師英軍を出撃させた。
- そのころ、軍資金をつかい果たした幻軍が、やっと重い腰を上げて、蘇江(そこう)(大河)を三度渡って、直北の地に侵入した。
- この時、幻軍の数は6万近くになっていた。北磐関(ほくはんかん)の降兵と沚水(しすい)都司・尚書令(しょうしょれい)義原之(ぎげんし)が馳走した兵が合わさった数。
- 北師英軍の精鋭20万に対抗できる数ではなかった。
234 銀河は、角先生に乱の話を聞いた。
- 銀正妃が角先生に会いたいとたっての願いを聞き入れたていをとったが、本当は先生の方が会いたかった。
- 角先生は、持病で顔色がすぐれない。天命の近い角先生にとっては、銀正妃が『我学ノ真偽』を知れる最後の機会。
238 槐歴(かいれき)2年11月
- 幻軍と北師営軍が開戦
- 10月半ば、北師営軍は山岳を抜けてきた幻軍を叩くべく、縦深陣を敷いた。すでに北師営軍が優位。
- しかし、幻軍は山岳の中途でのんびり野営して出てこない。季節は冬になる。食料、燃料は、沚水(しすい)から。
- 北師営軍は、吝嗇(りんしょく)な兵部から最低限の食料と衣類しか支給されておらず、精鋭たちも我慢の限界だった。この時期、朝方は零下15度。今後まだまだ寒くなる。
239 新幻賊巡撫(じゅんぶ)馬逗(ばとう)は、待ち伏せを諦めて、山岳部に攻め入ったが負け、後退して北師よりに布陣しなおす。次は野戦を行うつもり。
- 幻影逹(イリューダ)は止めたが、渾沌(こんとん)は自ら王斉美(おうさいび)の敵討ちのため出て行った。
240 兵部尚書・李實(りじつ)は、師南の平地にて幻軍を撃滅すると、槐歴帝双槐樹に奏上。
- この時双槐樹(コリューン)は、平地戦で北師営軍が敗北するなどということは、夢にも思っていなかった。じきに片が付くと楽観していた。
- 幻軍の乱のちょっとした山岳での成功を聞いて、各地方の反素乾勢力が便乗して蜂起することを恐れた。
- 兵部尚書・李實(りじつ)は、口では一両日中には幻軍討滅が成ると言いながら、その実、屋敷の財産を整理して北師に落ちる用意もしていた。李實(りじつ)は、幻軍の強さは知らないが、臆病風に吹かれている北師営軍の弱さはよく知っていたから。
- もし、王斉美(おうさいび)が生きていたら、偉徳王の乱のように自ら偵察隊を指揮して、情報収集重視主義によって、勝っていただろう。
241 2日後
- 北師営軍、師南ニテ潰走(かいそう)ス
- 双槐樹(コリューン)は、目を燃え立たせ、怒髪天をついた。
241 後宮に世にも珍妙な軍隊ができあがった
241 守禦(しゅぎょ)
241 後宮守禦(しゅぎょ)義勇軍(この小説では後宮軍と呼ぶ)
- 発起人は銀正妃(銀河)
241 幻軍は、北師の手前50里のところで悠々野営している
- 双槐樹(コリューン)は、我が国軍が弱くて、祖廟(そびょう)に顔向けできないと、病み衰えた表情。
- 事実は、奇跡的に北師営軍を破ったものの、兵士たちは疲労は甚だしく、もう一歩も動けない。間をおかずに北師へ乱入すべきが常法と、副将彿兼(ふっけん)が叱咤しても、本性惰弱な兵士たちは動かなかった。大将幻影逹(イリューダ)許して野営していただけ。
- ここに国軍の精鋭が1万もいたら、幻軍を駆逐していただろう。幻軍の幸運はここに最高潮を迎える。前の会戦で破った北師営軍の残兵が幻軍に続々と集まりはじめた。
242 素乾城を陥したあかつきには、まず後宮を犯すと言っている幻賊。
- 誰が吹き込んだか、幻影逹(イリューダ)は、「後宮の美妾(びしょう)数千人」という法螺(ほら)を聞いて涎(よだれ)ものだった。
- 最悪の場合は、お前様たちはここを落ち延びねばならぬという双槐樹(コリューン)に、銀河は、自分たちが追い払うと言った。
242 銀河の歴史的な活躍を開始する
- 規則を破って、紅葉(こうよう)に会いに行き、将軍にした。
- 娥局(がきょく)を回って,、後宮軍隊設立の趣旨を解き回る。
- 角先生が止めに来たが、角先生の哲学の絶命に苦渋に満ちた顔をしている。
- 角先生はまだしらないが、兵部尚書・李實(りじつ)は、都を落ちている。
- 内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)は、突如現れた菊凶(きくきょう)という策謀家の意見を取り入れて、幻影逹(イリューダ)へ内通することにした。
244 北師営軍が山麓地帯を引き払い、師南へ移動していた頃
- 内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)は、琴皇太后の遷化殿(せんかでん)で、菊凶(きくきょう)に見切るように説得されていた。
- 北師営軍の信じられない敗戦をしたわけには、その背後に、飛令郭(ひれいかく)と菊凶(きくきょう)の工作活動があった。
- 幻影逹(イリューダ)への使者の役目は、菊凶(きくきょう)が自ら買って出た。
- 真野が何をしていたかはわからないが、似たようなことをしていたであろう。
246 銀河に賛同した者たち
- たいていは庶民の出
- 女官の婆たちが、「この歳でここを追い出されては生きていけぬ」と覚悟した。
- 後宮軍隊103名(40以上が68名)
- セシャーミン
- 宦官亥野
246 将軍紅葉(こうよう)は、蔵書庫と武器庫をみたがった。
- 角先生はその頃もう、北師営軍が消滅したことを知っており、無言でうなずいた。
- 宦官亥野があちこち案内した
- 宮廷内は官吏が遁走した後で、閑散としていた。宮殿の宝物も盗まれていた。
246 武器庫
- 前の皇帝の腹宗(ふくそう)は、武器を趣味として好んだ。しかも西方好みで、最新の兵火器を西胡(せいこ)の商人から買っていた。
- 当時欧州で火を吹いていた「碧郎機(ビランキー)」といった現役の大砲が5門あった。
247 その後、将軍紅葉(こうよう)は、蔵書庫にこもって、一晩出てこなかった。
- 次の朝から銀河に武器と弾薬を全部、後宮に運び込んでと要求した。大砲・小銃・火槍(ほーちゃん)と呼ばれる携帯用火砲など運ぶのに苦労した。鉄砲(今でいう手榴弾のこと)・拳銃・投石機・弩(いしゆみ)・槍・長剣・短剣など
- 紅葉(こうよう)は、運び出した武器の使い方の説明をした。
274 弩(いしゆみ)
249 実際に乾生門(けんせいもん)を撃つと将軍紅葉(こうよう)
249 乾生門(けんせいもん)
- 素乾城と官僚たちが執務する外廷と皇帝とその家族たちの生活空間である内廷(後宮のこと)の2つに区切る門のこと
251 万策つきた双槐樹(コリューン)が、菊凶(きくきょう)が使者となり素乾城に幻軍を引き入れようとしていると吐き捨てた。
251 角先生は土下座をして双槐樹(コリューン)にあやまった。
- 角先生は、菊凶(きくきょう)の野心、琴皇太后との姦通を知っていてすてておいた。
- 角先生が菊凶(きくきょう)を処断しなかったのは、角先生の煩悩。菊凶(きくきょう)は、16歳くらいのころに北師の貧民窟から角先生に拾われた。女以上になまめかしく、寒気がするほど美少年であった。一時期は、寵童(ちょうどう)として愛でてたこともあったらしい。長じて一番弟子になった弟子にとりたてて、貧民窟出の孤児としては、破格の待遇を与えた。
- 角先生は知らなかったが、菊凶(きくきょう)はこの時、渾沌(こんとん)に斬られて死んでいた。
253 菊凶(きくきょう)の野心
- 菊凶(きくきょう)の弁舌は巧みで、かつ明晰な頭脳と、実行力、強い意志を持ち合わせ、野望を実現するのに必要な能力を天に与えられていた。
- 菊凶(きくきょう)は、これから内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)らを相手に危ない橋を渡らなければならないが、何度も飛令郭(ひれいかく)に会談していると、あれを操作する自信があった。できなくても、内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)も、太監真野(まの)も、自分より早く死んでしまう歳。菊凶(きくきょう)は、若い。
- 皇帝双槐樹(コリューン)を始末し、飛令郭(ひれいかく)らを骨抜きにした後は、自分の人形にすぎない新皇帝平菊を自在に操るつもりだった。
253 菊凶(きくきょう)の誤算
- 幻軍のことをほとんど無視していたこと。
- 幻軍は、どうせ頭の粗末な連中でどうでもなると、権力操作の道具としか見ていなかった。下種(げす)で政治に関しては子供の連中に、施しを与えるようなつもりで弁じ、策を授けた。
- 「琴皇太后の御子息にして先帝(腹宗)の遺児にあらせられる平菊様をかつがれればなにかと都合がよいように存じます。内閣首輔の飛令郭(ひれいかく)殿もそのせんなら協力を惜しみますまい」と、大将幻影逹(イリューダ)や参軍亮成丁(りょうせいてい)、副将彿兼(ふっけん)を前にして言った。
- 平菊をかついで素乾を乗っ取れば、“簒奪者"という歴代の王朝創立者たちが最も恐れた批判をかわすことができる。よい取り引き。その時、誤算の男渾沌(こんとん)が、王斉美(おうさいび)を葬ろうとした人間を知っているかと尋ね、菊凶(きくきょう)が、王斉美(おうさいび)は逆臣と答えた瞬間、首が飛んだ。
254 なぜ斬ると渾沌(こんとん)に参軍亮成丁(りょうせいてい)が責めた。
- この軍は、王斉美(おうさいび)の仇討ちだと答える渾沌(こんとん)。
- 今から内閣首輔の飛令郭(ひれいかく)とかいう畜生を斬りに行くと、勝手に全軍に指令を出したのを、大将幻影逹(イリューダ)が「渾兄哥(こんあにい)は勘違いをしている」と初めて批判した。
254 槐歴(かいれき)3年正月北師に幻軍が乗り込んだ。
- 夜に粉雪、路上に氷板
- 北師の名のある富豪連は、とっくに退去していた
- 北師に駐屯している西湖(地理的にはギリシャ以西にある国々の総称)の人々は用心深く乱の成り行きを見守っている。彼らは反乱軍が自分たちには危害を加えないとたかをくくっていたが、誤っていた。
- 幻軍は、かつての反乱者たちが必ず発布して民衆の心を収攬(しゅうらん)した「法三章」などの思想は全く持っていなかった。幻軍兵士は北師において、ほしいままに乱暴狼藉を働いた。西湖人も危害は大いに及び、これが原因で2年後に西洋軍隊(伊軍)が大挙来襲して、北師を蹂躙することになる。
心を収攬(しゅうらん)
255 「法三章」
- 昔の反乱軍兵士は、「殺す。盗む。犯す。」を徹底して禁じられ、これを破った者は即座に民衆の前で斬られるか、罪相応の刑罰を加えられた。
255 素乾城は包囲されている
- 外廷は早々に破られ、渾沌(こんとん)は真っ先に内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)を探し出し、有無を言わさず切り捨てている。
- 太監真野(まの)も、王斉美(おうさいび)暗殺に加担したと聞いて、手配している。
255 渾沌(こんとん)があくまで王斉美(おうさいび)の敵討ちというテーマにそって外廷を荒らしているとき、大将幻影逹(イリューダ)は、後宮攻撃に血道をあげているが、なかなか破れなかった。
- 幻軍攻撃の直前、紅葉(こうよう)は碧郎機(ビランキー)をたるとの前まで曳いてこさせ、たると内部の黒々とした空間に向かって砲撃準備をさせた。その碧郎機(ビランキー)を宝(ほう)美人にまかせて、もしたるとが壊れても好都合と伝えた。
266 紅葉(こうよう)の考えた後宮籠城作戦
266 参軍亮成丁(りょうせいてい)の率いる部隊が、たるとから突入。亮成丁(りょうせいてい)は甘くみて、美女を抱くことで頭が一杯だった。
- 十分すぎる程引き付けて、宝(ほう)美人は碧郎機(ビランキー)を発砲した。
- この時、悪運強く生き残った亮成丁(りょうせいてい)は、片足と片腕を失い、視力聴力の障害は死ぬまで続いた。
267 紅葉(こうよう)が兵火器を重視したことが、後宮軍の強さの一因。
- 紅葉(こうよう)は乾生門とたると口に碧郎機(ビランキー)を配置
- 城壁が低く登られやすい場所に火槍兵、小銃兵を置いて射撃
- 宦官隊には鉄砲を持たせて、擲弾兵(てきだんへい)としてどこへでも急行できるように待機させた
267 擲弾兵(てきだんへい)