宇宙のみなもとの滝 単行本 – 1989/12/1 山口 泉 (著)
イラハイ (新潮文庫 さ 34-1) 文庫 – 1996/9/1 佐藤 哲也 (著)
269 渾沌と銀河の会見
- 瓜祭(かさい)の山で会ったことを覚えていた渾沌。銀河は顔を覚えていなかった。
- 銀河は投降した双槐樹(コリューン)に会わせてほしいと願う。
- 混沌はふてくされて酒を食らっていたから、皇帝が投降したことを知らなかったが、兵士が「素乾もこの身も明け渡すゆえ、後宮の安全をはかられたい」と幻影逹(イリューダ)に直訴したと伝えた。渾沌は潔いと言って、それで兄弟はどうしたのかとたずねた。
- 鼻で笑って、皇帝を馬小屋に軟禁し、玉遥樹(たみゅーん)は幻影逹(イリューダ)に犯され、その後舌を嚙みちぎって自殺したと聞き、渾沌は銀河よりも激昂した。
- 渾沌は自分の自由の心の命ずるまま、銀河を皇帝に会わしやると、隊長に案内させる。
271 渾沌と銀河は歩きながら語らい、銀河の警戒心が薄れ位でいく。
- 房中術は、角先生のいうほどおおげさなものじゃなく、特別でもないよ。と銀河に話ややる。
- 角先生とやらの哲学はくだらないが、その人物は美というものがわかっているようだ。と渾沌は、どちらかというと角先生を誉めた。
- 後宮を攻めている連中は馬鹿で、大砲を使うか、火をかければいいのに、女性たちを傷つけず自分のものにしたいから、自分が大けがをしている。という渾沌に銀河は驚いている。
- 銀河があなたも仲間だろうと言うと、「いいやすでに仲間ではない」と告げた。
273 馬小屋の前の見張りに金を与えて、追い払った。渾沌はしばらく自分が見張るからどこかへ行ってろと伝えた。
- 混沌は銀河には、「皇帝はあなたが逃げようと言っても、おそらく、逃げないというはずだ。そういう覚悟をしていらっしゃるとお見受けした。この覚悟は正しいはずだ」と感動したように言って、馬小屋の鍵をかけてくれた。
273 ・・・「陛下、男として、足下が羨ましい」と滅茶苦茶な言い方で銀河のことを誉めた。・・・
273 足下(そっか)
273 銀河と双槐樹(コリューン)の再開
- 「わしは逃げぬぞ。幻影逹(イリューダ)という男、話は分かりそうな仁であったからお前様たちにひどい目に合わせることはあるまい」と銀河に言う。玉遥樹(たみゅーん)の無残な死を知らない様子だった。
- 「わたしは道女になりました」だけ伝える銀河。
- 角先生の教えとは別に、銀河は自由に抱かれた。
275 外に出ると、渾沌は眠っていた。
- 双槐樹(コリューン)はすべての闘争から解放された安堵感に浸って眠っている。銀河が彼を解放した。
- 銀河はこの時、双槐樹(コリューン)の子を身籠った。この子こそが、後に、乾朝の太祖神武帝となるところの列子黒曜樹(こくようじゅ)である。
275 「馬糞臭い、風呂に入れ」と笑う渾沌。銀河が町屋の風呂を借りていると、突然渾沌が戸を開けた。
- 「面白いことを考えた。宮女をおちのびさせてやる」と悪戯っ子のような顔で言った。
- 渾沌は銀河の人質になった芝居をうつ。
276 渾沌の幻影逹への情は冷めていたが、幻影逹は渾沌に対して激しい友情を保っていた。根が単純なので、幻影逹は白痴(はくち)のような素直さで、銀河の要求を飲んだ。
- 沸兼(ふっけん)ほか各隊長は、必死になって幻影逹に意見した。沸兼(ふっけん)にしてみれば、渾沌のような気味の悪い男がどうなろうと知ったことではなかった。幻影逹がいなければ二人とも殺していただろう。
276 白痴(はくち)
277 後宮の安全解放
- 宮女、婢(はしため)、銀河に味方した宦官十数人、870名ほどが後宮の建物から要求した馬車で脱出した。
- 次の王に仕えたいという官女は残っている。
- 銀河は渾沌と一緒に殿(しんがり)の馬車。後宮軍隊将軍の紅葉(こうよう)が殿(しんがり)を買ってでた。
- 紅葉は、2つ考えた脱出策がつかえなくなったと銀河に伝えた。
- 幻影逹は、渾沌が解放されるまで絶対に手をだすなと厳命したので、沸兼(ふっけん)も追跡をひかえた。それより、幻影逹を新皇帝にする仕事が待っていた。
278 馬車の中で、角先生は生涯を閉じようとしている。
- 「銀正妃、証したか・・・」と尋ねる角先生に、「よくわかりません。心がほんの一瞬ですが、交わりました。体温も、香りも、言葉もその心の交わりに付属するものでした」と答える銀河。角先生は歓喜に満ちた表情で、「・・・で、よい」と最後の言葉を言った。
- 銀河が角先生の哲学を証した、と実感したのは、後に息子の黒曜樹(こくようじゅ)が天下を制したときである。
279 角先生が亡くなった時、奇しくも双槐樹(コリューン)が崩御している。
- 幻影逹の家臣に転身した、宦官の綾野(りょうの)が、双槐樹(コリューン)に毒拝を渡した。双槐樹の辞世の言葉は残っていない。
279 銀河たちは角先生の遺体を蘇江(そこう)を渡ったところにある小高い丘に埋めた。
- 手伝った渾沌が、「宿題を果たしたような面(つら)をしている」と言った。
- 正史「素乾書」の記述はここで終わる。
- この先をしりたければ、「乾史」を読まなければならない。
279 素乾朝と素乾後宮は消滅した。
- 銀河は、市井(しせい)の一人物となった。
281 縦横
281 幻影逹(イリューダ)は、新周という名の王朝の初代皇帝となった。
281 新周の後宮は幻影逹が急遽立てさせた粗末なもの
- 北師の庶民の女を攫うようにして搔き集めた
- 妓楼を一店買い上げるようなこともしている
- 民衆の恨みを買った
281 幻影逹の乱(渾沌の役)は、極地の乱だった。1年足らずで北師を陥れた。期間は短く、行動範囲が狭い、幻軍が北師を攻め、あっという間に新王朝を建てた時、地方の有力者は動く暇さえなかった。
- 幻軍が北磐関(ほくはんかん)を破った時点で幻軍に呼応して挙兵した幾つかの軍団は、まったく活躍することなく終わってしまった。
- この軍団のエネルギーが消滅することなく、動き始めた。
281 建国直後の国ほど不安定でもろい。
- 各地の武装蜂起軍をさばききれなくなった。
- 「幻影逹の簒奪王朝を討滅せよ」がスローガン
282 兵部尚書に就任した沸兼(ふっけん)は、悲鳴をあげて幻影逹に親征を乞うた。
- 幻影逹は、1年以上も戦塵にまみれ、何度も負けた。
- 幻影逹がぼろぼろになり地方から逃げ帰ると、今度は北師に外国軍が押し寄せた。
282 親征(しんせい)
282 外国軍
- 幻軍が北師を攻めた時に乱暴したり、殺したりした西湖人の軍隊
- 東鹿(とうろく)州から軍艦を乗り付けて上陸
- 優秀な兵火器力をもって新周を踏み潰した
282 幻影逹は命一つで北師を逃れ、その後、瓜祭(かさい)に逃げ帰ったところを地方の蜂起軍に捕捉されて、刑死した。
- 幻影逹は親征の途中で、しきりに「渾兄哥(あにい)のいうとおりだった。天下など取らねばよかった」とこぼしていた。
282 新周はわずか2年でついえた
- その後、銀河の息子の黒曜樹(こくようじゅ)が天下を統一するまで、群雄割拠の乱世が続く
282 渾沌の末路は2説
- 幻影逹の放った刺客(しかく)に殺されている・・・人質の一件は渾沌のぺてんであったと密告が入り、激怒した幻影逹は、沸兼(ふっけん)に暗殺部隊を作らせて渾沌を追わせた。沚水(しすい)の妓楼で、膾(なます)のように刻まれて死んだ。なじみの妓女も折り重なるように亡くなった。自害かとばっちりか、原因は不明。沚水(しすい)に事件の言い伝えがある。
- 地方蜂起の健州王杜邊(おうとへん)の片腕といわれた喃威(なんい)がじつは渾沌であったという説。この説をあげる人は34も証拠をあげている。いい加減で行き当たりばったりに見える喃威(なんい)の献策には渾沌らしい点も多い。
283 喃威(なんい)
- 新周建国直後の時期に杜邊(おうとへん)に拾われて、謀臣となった。
- 喃威(なんい)は、王杜邊(おうとへん)が没落したあと瓜祭(うさい)に隠れ、81歳で死んでいる。
283 天山遯(てんざんとん)は2説いずれも信憑性大であるとして、どちらも「素乾通鑑(つがん)」に載せている。
283 素乾最後の宮女たち
- ほとんどが、平凡な女房になった
- 後宮仕込みの房中術が彼女たちにより広く巷間(こうかん)に流出した。妓楼で才色兼備にして床上手の評判を得た者も多かった。セシャーミンは、その世界で特に有名になった
283 沚水(しすい)に世明妓楼館という妓楼ができて、瞬く間に大きくなった。
- その娘児(にゃんる)(女将)がセシャーミン
- 自分の店の妓女に、房中術の秘宝を教え込んで、有名になった。
- 時にはセシャーミン自らも客を取っていて、大変有名だった。遠くからわざわざ会いに来る富豪が後をたたなかった。
- 彼女はなかなか老いず、40過ぎても相変わらず色の白い、綺麗な女であったという。晩年は酔うとすぐに、懐かしそうに銀河の話をした。
284 銀河は、茅南(ちなん)州の江葉(こうよう)の在所に暫く住んだ
- 江葉が子供が生まれるまで田舎に隠れているべきだと忠告したという
- 江葉の故郷は、出産・子育てにはうってつけの田舎だった
- 子供が乳離れした時、銀河はまだ十代の若さで、退屈を嫌って、黒曜樹(こくようじゅ)を信頼できる人に預けて旅に出た。5年に一度ほど黒曜樹の顔を見に帰る悪い母親だったが、黒曜樹は、勇才兼備した美丈夫に育った。養家の功だろう。
- 銀河の旅の伝説は、多く残っている。
285 銀河の行跡は、黒曜樹が乾朝を建てて、国内をほぼ平らげ終わった1639年に、北師の旧素乾城で黒曜樹に謁見したあと途絶えている。
- 銀河が44歳
- 神武帝黒曜樹が28歳
- 引き止める黒曜樹に「お頑張りなさい」と気楽な文句を言ってから旅に出たらしいが、その後消息は知れない。
286 近年、といってっも戦前
- U大学の東西文化研究の第一人者M・ハワード博士が、「銀正妃とリヒトシトリ侯爵夫人が同一人物であるという考察」という論文をかいた
286 リヒトシトリ侯爵夫人
- 1640年頃から1660年頃にかけて欧州社交界のオピニオンリーダー的な婦人
- サロンに出入りしては、風変りな論議と話術で皆を魅了した
- 独身であったらしい
- 侯爵夫人というのは、サロンに出入りするときの通り名であった
- 他に「天の河(ミルキーウェイ)」というニックネームで呼ばれ、ハワード博士によれば、これを銀河とリヒシトリ侯爵夫人が同一人物であるという証拠の一つに数える。
- 知的な黒い瞳を持った美女として絵画には描かれている
- リヒシトリ侯爵夫人は歴史では、女権論者として知られている。
- 時の仏帝国皇帝がリヒシトリ侯爵夫人に謁見した際、婦人の女権論をからかった。リヒシトリ侯爵夫人は、陛下も、哲人アネイエスも、天下の文人ドワイツも、天下の聖者ピエトロも、欧州の知恵と力と精神すべからく、女性のお腹から生まれたのです。と、皇帝にいった。ハワード博士はこの考えは、角先生の哲学に非常に近いと論じる。
- リヒシトリ侯爵夫人には、エヴァ・シュラインという親友がいた。
286 エヴァ・シュライン
- 美貌で、無口だったが、一度喋ると分厚い刃物のような論理を展開し、余人を寄せ付けない賢婦人ぶりを発揮した。
- エヴァにやりこめられた貴族の子弟は、「冷感症夫人」と陰口をたたいた
- ハワード博士は、このエヴァ・シュラインは、江葉に違いないと論じている。
287 筆者は信用していないが、楽しい仮説。
287 筆者は、この小説の取材のため銀河ゆかりの地を大部分回った。その一つに、泉西省の婦院がある。
287 泉西省の婦院
- 婦院は、乾朝の時代には、駆け込み寺のような場所であった。
- 銀河が建てたものであるという。
- 建物の名が、後に地名になった。
287 ・・・婦院は今では大陸鉄道の重要な連絡駅を持ち、殷賑(いんしん)である。・・・
287 殷賑(いんしん)
287 銀河の建てた婦院は、旅館になっている
- そこの女将は、銀河のファンで、婦院における銀河のエピソードを語ってくれた。
287 女将の話
- 銀河は、ここでカウンセラーのようなことをしていた。
- 男で失敗した女たちの世話を焼いていた
- 望む者には後宮哲学の講義をしたりした
287 旅館の裏に銀廟(ぎんびょう)という小祠(しょうし)がある
- 縁結びの験(げん)がある
- 若い娘に人気があり、多い日には100人以上お参りに来る
289 文庫あとがき
291 ・・・しかし、私自身はそれではあまり面白くないから、パラダイムシフトするとか、エントロピーを減らすとか(述語の意味がよく分かっていないが、カッコいいので使う)、枠組みを叩き壊し、無から有を生むべく挑戦するのも甲斐のあることだろうと努力したい。・・・
291 パラダイムシフト
291 エントロピー
293 アニメ『雲のように風のように』のこと
昨今、話題の原作者の気持ちが書かれている。生みの親の気持ちですね。
299 「軽み」の美学 矢川澄子
299 矢川澄子
299 高橋源一郎
299 ・・・実はこの賞はもともと、手塚治虫氏を中心に、高橋氏のほか荒俣宏、安野光雄、井上ひさし、矢川澄子の6名を選者として予定していましたが、募集広告の直後、手塚氏が急逝されたために、のこる5人でのいささか不安をはらんだ出発となりました。・・・
300 このジャンルの旗手としてすでに定評のある山口泉氏の『宇宙のみなもとの滝』(優秀賞受賞)と比べても何ら遜色のない、第一級の文学作品だったからです。・・・
300 山口泉
301 ・・・第一回目にこのようなハイレベルの作品を得たことは、その後の応募者たちにある緊張を呼びさまし、賞そのものの権威をいちじるしく高めてくれたからです。ちなみに現在までに4回を重ねたものの、その後に大賞受賞者は第三回(1991年度)の佐藤亜紀氏ただひとりです。
301 佐藤亜紀
302 エクピテトス