211 北磐関(ほくはんかん)
211 幻影逹の軍
- 幻義侠組(げんぎきょうぐみ)と名乗っている
- 総勢3万ほど
- 4月上旬に嵬崘塞(がんろんさい)をやっと出発した
- 嵬崘塞(がんろんさい)正規兵、地元の郷兵、嵬崘塞(がんろんさい)の管轄下にある屯田兵らの雑軍+亮成丁(りょうせいてい)が率いた丙濘(へいねい)の農民兵
- 病床の命旦夕(めいたんせき)に迫っていた磁武(じぶ)を騙し、そそのかし、脅すかして、号令書を彿兼(ふっけん)が喜んで取っている。内容はない、幻影逹を将として征旅にむかうべしと一筆ある。これが名目となり、正規兵と屯田兵が従った。
- 丙濘(へいねい)の衆には、暴虐無道の政府役人どもに天誅を加えに行くという、檄文に書いてあった名目を与えて誘った。真面目な亮成丁(りょうせいてい)は信用して農民達を率いた。
- 郷兵は、地元の農民や商人の次男坊、三男坊で仕事がなくぶらぶらしているのを予備兵役としているものである。遊び好きが多く、兵士として役に立つかどうか疑わしいが、幻影逹の柄の悪い部下が旨いことを言って集めた。
- 大将幻影逹、副将彿兼(ふっけん)、参軍亮成丁(りょうせいてい)という幻軍。渾沌(こんとん)は肩書はほしがらず、雑兵の中に混じりのんびり騎行していた。
211 命旦夕(たんせき)迫る
212 行軍ルート
- 幻軍はなぜか遠回りに沚水(しすい)州に向かっている。
- 嵬崘塞(がんろんさい)から東へ直行すればたいした苦労もなく直北の北師へ入ることができる。
- 沚水(しすい)から回ると、蘇江(そこう)という大河の最も幅の広い部分を渡らねばならなくなるし、直北の手前の北磐関(ほくはんかん)という軍事上の要害も突破せねばならなくなる。
212 北磐関(ほくはんかん)
- 直北の手前の軍事上の要害
- 難攻不落
212 沚水(しすい)州に行く理由
- 沚水(しすい)の地は天堂(天国)と昔から言われているから、是非見物に行こうと幻影逹(イリューダ)。
- この意見に、参軍亮成丁(りょうせいてい)が後悔の念がよぎっている。
- 実は沚水(しすい)観光は、挙兵の時点から渾沌(こんとん)と相談して決めていた。作戦的なことではない、渾沌(こんとん)の思いつきに幻影逹(イリューダ)が賛成した。
213 幻軍が難攻不落と言われた北磐関(ほくはんかん)を抜いた。
- 抜いたという評判だけで北師兵部の将官たちを震え上がらせた。
- 多分に虚喝(きょかつ)でしかない幻軍の戦力を巨大に見せることに成功し、北師進行は無人の野を征(ゆ)くが如き容易さとなった。
- もし、幻軍が直進して北師を衝くという常識的なコースをとっていたら、北師営の20万の衛兵に粉砕されていただろう。そういう意味では幻軍がとった沚水(しすい)観光コースは正解だった。
- 嵬崘塞(がんろんさい)の金庫を逆さに振って資金としている。(沚水(しすい)で遊ぶための軍資金)都司尚書(しょうしょ)の磁武(じぶ)が死んでいたからできたことだった。生きていれば絶縁の末、首を斬られていた。また都司の金庫泥棒を人々も咎めず、送り出した。
213 虚喝(きょかつ)
213 沚水(しすい)に侵入した軍団に狼狽したのは、沚水(しすい)州都司。
- 幻軍が州境を超えたという報告を聞いて、尚書令(しょうしょれい)義原之(ぎげんし)は詰問の使者に1万の兵をつけた。
213 尚書令(しょうしょれい)義原之(ぎげんし)
- 沚水(しすい)州都司
213 都司侍郎馬狸(ばり)
- 幻軍が州境を超えたという報告を聞いて、尚書令(しょうしょれい)義原之(ぎげんし)が、1万の兵をつけられた詰問の使者。
- 名前のとおり動物めいた面(つら)をしていた。
214 都司侍郎馬狸(ばり)の詰問への幻影逹(イリューダ)の答え
- 岐安(きあん)州にての略奪、横暴を繰り返している野蛮のモルギ汗(はん)を征伐しに行く途中だと、でたらめを言った。
214 モルギ汗(はん)
- 北方の騎馬民族
- 毎年恒例のように岐安(きあん)に暴れ込んでは掠奪していくが、それは収穫の時期に限る。今時分に来た例はない。
214 疑う都司侍郎馬狸(ばり)
- 幻影逹(イリューダ)は、今回は追い散らしにいくのではなく、モルギの国を征旅し、汗(はん)の首を刎ねあげる所存だと法螺をふく。
- 疑う都司侍郎馬狸(ばり)にずっしりとした包み(大金)を渡し、さらにそれより大きい包みを尚書令(しょうしょれい)義原之(ぎげんし)の分として渡した。
- 馬狸(ばり)は、兵部に一応問い合わせる。その間、10日ほどかかると思うが、それまでこの地で鎮まってもらうといって帰る。そして、沚水(しすい)に入った。
215 沚水(しすい)州
- 海から沚水(しすい)に入った昔の人は、まず肥沃な土地柄に目を見張った。
- 夢のように美しい田園
- なだらかで緑なす丘陵をゆるゆる行くとやがて海のような、有名な白湖。
- 当時、おそらく世界最大の歓楽都市。
- 沚水(しすい)城が目前。沚水(しすい)城は方形の城塞都市。
215 幻影逹(イリューダ)の一行はここで豪遊した。
- 雑兵のはしばしにいたるまで小遣いを与えて、遊ばせた。
- 金払いよく、揉め事なく遊んだので、このことは沚水(しすい)城の人々に好感をもたれ、後に役立った。
216 沚水(しすい)の妓女
- 美しいだけでなく、古典的教養もあり、詩賦(しふ)の交換もでき、歌舞音曲に優れているのは当然で、笙や琵琶の名手も数多くいた。
- 旦那衆は妓女に敬意すら払い、娘(にゃん)という言葉はそのままで敬語になったほど。
- 沚水(しすい)は古来より美女の産地
216 娘児(にゃんる)
- 女将のこと
216 最初は田舎者を頭から馬鹿にしていた、娘児(にゃんる)(女将)も露骨に嫌な顔をしてみせたにちがいない。
- 幻影逹(イリューダ)は、城内の有名な妓楼に上がり、毎日違う女を相方にした。軽蔑されているのも気付かなかった。それでも生来の人徳でじきに、「幻大人今日は私の部屋にいらしゃいな」と袖を引かれるようになった。
- 渾沌(こんとん)は、最初の日に入った店に、沚水(しすい)在中はずっと入り浸った。妓女も初日から最終日まで同じ女を相方にした。坊主頭に異相の渾沌(こんとん)に相手の妓女ははじめは気味悪がった。しかしずっと部屋に居続ける男に情が移り、話をしてみると意外に教養があるし、独特の個性がある。『存外、可愛らしい』と、最後には長年連れ添った夫婦のような様子になっていた。
- 亮成丁(りょうせいてい)は官吏の汚職に義憤を感じて野(や)に下った生来生真面目な男であったが、沚水(しすい)で遊んでいるうちに人が変わった。この時初めて遊びの面白さを知った。亮成丁(りょうせいてい)は細面の好男子で、進士に及第したほどの秀才であったから、妓女にもてた。亮成丁(りょうせいてい)の人生観は180度変わった。
- 幻影逹(イリューダ)らは、沚水(しすい)城に20日ほど滞在した。軍資金がなくなり、泣く泣く腰をあげた。
217 幻軍が白湖を過ぎ、蘇江(そこう)という大河を船旅でもするようにのんびりと渡った頃、すでに6月であった。
- ここまで一度の戦闘もなし。
217 蘇江(そこう)(大河)の北岸の衛所でついに戦闘が行われた。
- 取り調べを受ける際に相手に渡す賄賂がもうなかったから。
- 衛所の駐在兵は、あっという間に蹴散らされた。
- 衛所長は、北磐関(ほくはんかん)に逃げ込み、北磐関(ほくはんかん)の駐在武官は北師兵部にすぐざま通報した。(ここで、幻影逹の乱はようやく宮廷の知ることになる)
217 王斉美(おうさいび)
- 素乾宮廷内での数少ない硬骨漢の官僚
- 内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)と太監・真野(まの)は、この男をけむたがって陥れるすきを窺っていたが、王斉美(おうさいび)には一点の曇りがなく、果てしない。
- 幻賊、江を渡るの報を聞き、飛令郭(ひれいかく)と真野(まの)は、このチャンスに手回しして、王斉美(おうさいび)を幻賊巡撫(じゅんぶ)に任命した。
- 王斉美(おうさいび)は、文官。軍事の才は音に聞こえている。
- すでに王斉美(おうさいび)は、腹宗のときの偉徳(いとく)王の反乱の巡撫(じゅんぶ)に任じられたことがある。王斉美(おうさいび)は、この乱を鮮やかな手並みで鎮圧した。
- 軍事的才能があった、栖斗野(せいとの)は王斉美(おうさいび)の才を恐れ、腹宗に讒言(ざんげん)を繰り返したが、明らかに嘘であったから、忠臣太梁(たいりょう)がとりなし、腹宗も処罰しなかった。しかし、出世もできず今に至った。
- この時期には珍しい正義派の官僚。
- 角先生と仲がよかった。王斉美(おうさいび)の方がよほど年下であったから、師弟の礼をとっていたが、角先生の方は、気さくに友人づきあいしていた。
- 妻と息子がいる。
- 王斉美(おうさいび)は、内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)らの企みを承知で巡撫(じゅんぶ)を引き受けた。敵は宮廷内、死ぬ覚悟だった。
218 巡撫(じゅんぶ)
218 巡撫(じゅんぶ)軍
- 文官が武官を押さえて司令官に任じられる例は珍しくなかった。
- 巡撫(じゅんぶ)軍を起こす時には、文官をその大将にするのが素乾の慣例だった。
218 偉徳(いとく)王
- 腹宗(ふくそう)の叔父。
- 地方の軍閥をにぎっている、厄介な相手。
219 6月14日 王斉美(おうさいび)は、北磐関(ほくはんかん)に入った。
- 王斉美(おうさいび)は、鉄壁かつ安全な要塞に自分を入れられたということが、内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)ら並々ならぬ意欲を表していると見た。
- 王斉美(おうさいび)の真の敵は、後ろから来るはず。
219 この時、幻軍は約4万に膨れあがった。
- 幻軍が北磐関(ほくはんかん)の手前に布陣したのは、王斉美(おうさいび)が入場した2日後。(6月16日)
- 北磐関(ほくはんかん)を見て、どうするかと尋ねる幻影逹(イリューダ)に、渾沌(こんとん)は「負けよう」と思いついたことを言った。幻影逹(イリューダ)はいつものように渾沌(こんとん)に自分の全財産をかけて、投降するという。
- 一戦も交えず投降するという意見に、副将彿兼(ふっけん)、参軍亮成丁(りょうせいてい)の2人も渋々従った。
221 不気味なほど運のいい投降
- 投降が半日遅れていれば、確実に殲滅されていた。
- 城将が王斉美(おうさいび)であった、ということも運のよさだった。政治的背後が危ない男であったことが幸運であった。
221 王斉美(おうさいび)の引見
- 王斉美(おうさいび)の公平根性。書記官をおいて調書を取っている。
- 大将幻影逹(イリューダ)、副将彿兼(ふっけん)、参軍亮成丁(りょうせいてい)、3人とも「実能なし」という見解
- 罪状は、嵬崘塞(がんろんさい)の金庫を空にしたことと、蘇江(そこう)(大河)の北岸の衛所を襲ったことだが、衛所の官はかすり傷を負った程度で逃げ出している。
- 反乱なら極刑だが、反乱などではなくごろつきたちが遊び回ってだだけかもと、王斉美(おうさいび)は、この連中を極刑にするのは可哀そうだと思った。
- 渾沌(こんとん)は、投降をいち早く説いたというから、王斉美(おうさいび)の最も嫌うタイプの、機転のきく日和見主義な男だろうと思っていたが、会うと違った。二人で語り合い、北師に護送された折には角先生に会ってみよとまで勧めている。
- 渾沌(こんとん)は人見知りだが、王斉美(おうさいび)を気に入ったので、首を斬るのならあんたにやってもらいたいと言うが、私は北師に帰れるかどうかも危ないので、その頼みは約束できないと断る王斉美(おうさいび)を、書記官が不審な顔をして、渾沌(こんとん)は全てを悟った。
223 北磐関(ほくはんかん)の陣中には、内閣首輔(しゅほ)・飛令郭(ひれいかく)に命じられての足を引っ張り、あわよくば戦闘中に後ろから討ち、それもできないときには、刺客となるべく潜んでいるものが数人いた。いずれも王斉美(おうさいび)の補佐の将官クラス。
- 幻影逹(イリューダ)が一戦もせず降伏したので、早々に刺客にならねばならなくなった。
- 星のふるような夜半、刺客はの1人は幻影逹(イリューダ)らが閉じ込められている牢獄へ、残りは王斉美(おうさいび)のもとへ。
- 幻影逹(イリューダ)達を解放し、王斉美(おうさいび)殺害容疑を彼らに被せようという魂胆だったが、渾沌(こんとん)が斬り殺し、みんなで王斉美(おうさいび)のもとへ向かった。
- 王斉美(おうさいび)の部屋を探すうちに銃声がしたので向かうと、すでに王斉美(おうさいび)を片付けた3人組と出会わした。1人は、王斉美(おうさいび)に撃たれていた。渾沌(こんとん)と幻影逹(イリューダ)と彿兼(ふっけん)と亮成丁(りょうせいてい)で3人組を倒す。
- この時はじめて渾沌(こんとん)に乱の名目が成立した。王斉美(おうさいび)の仇討をする。王斉美(おうさいび)に恩も義理もないが、渾沌(こんとん)は王斉美(おうさいび)の人柄と、馬鹿正直な死に様に全身全霊をあげて感動したのが理由。
- 渾沌(こんとん)が王斉美(おうさいび)の部屋で、心に満ちた憤怒の熱を文字にして大嘘の創作している間に、幻影逹(イリューダ)たちは、北磐関(ほくはんかん)の掌握戦をし、手に入れた。
226 夜明けには、北磐関(ほくはんかん)は幻影逹(イリューダ)のものになっていた。
- 渾沌(こんとん)の大ぼらの残虐小説は、「渾沌残虐録」と呼ばれ、小説、史書の残虐描写の新しい手本となった。
- 「渾沌残虐録」は北師に贈られた。使いの兵の服に馬の血をばっとぶちまけ、少し引き裂いて地獄から帰還したかのような芝居をさせた。
228 渾沌(こんとん)の大ぼらの残虐小説は、「渾沌残虐録」の効果
- 北師の高官は青ざめ、宮廷の人々は戦慄した。